
1 オウンドメディア立ち上げ現場をフリーランス法で守れ!昭和脳に鉄槌を!
問 Webディレクター業を営むA(従業員を使用していないものとする。)が、マーケティング支援SaaSを開発する法人B(従業員を30名使用しているものとする。)から、新規Webメディアの立ち上げ支援及び月次のコンテンツ進行管理業務を、期間1年、月額報酬40万円(各フェーズにおいてマイルストーン達成により追加報酬5万円が発生する。)の条件で依頼された(以下、「本件委託」という。)。
本件委託の開始から4ヶ月後、AはB社の担当役員Cに対して妊娠した旨を伝え、今後の体調管理や検診のための業務スケジュールへの配慮を申し出た。しかし、Aからの申出に激高したCは、その場でAを怒鳴りつけるだけでなく、B社の全社員が参加するSlackのプロジェクトチャネルにおいて、「重要なプロジェクトの進行中に妊娠するようなふしだらな人間にディレクションを任せたのは失敗だった。プロ意識が欠如しており、彼女1人でチーム全体の士気を大いに下げている。」、「特別扱いを望むなら、今すぐこの業界から去れ。」等といった、Aの人格を否定する投稿を連日繰り返した。
さらに、CはAに対し、「妊娠による集中力の低下でAの成果物の質が著しく下がった」と一方的に断定してCを業務から排除するとともに、それまで1度も指摘してこなかった軽微な形式不備を口実として、直近1ヶ月分のAの報酬全額の支払いを拒否した。かかるCの対応について、B側から特に異論は発生していない。この事案におけるB社の対応に関する以下の記述のうち、特定受託事業者の取引の適正化等に関する法律(以下、「フリーランス法」という。)に照らし、正しいものはどれか。
1 フリーランス法上のマタニティハラスメントも、セクシュアルハラスメントと同様、対価型と環境型の2類型に分類される。本問において、Aが妊娠を理由とする配慮措置を申し出たところ、Cがプロジェクトの遅延を懸念してAを非難する言動を繰り返したことでAの就業環境が害されているので、後者の環境型マタニティハラスメントの事案といえる。
2 フリーランス法上のマタニティハラスメントの行為主体も、セクシャルハラスメントと同様である。すなわち、特定業務委託事業者(法人の場合、その役員)又はその雇用する労働者による言動のみがマタニティハラスメントに該当し得るのであるから、Bとしては、たとえAが本件委託の遂行にあたりBの親会社Dの役員Eと一定の関係性をもつとしても、Eの言動にまで注意を払う必要はない。
3 フリーランス法上のマタニティハラスメントも、パワーハラスメントと同様、客観的にみて、業務上の必要性に基づくものとはいえない言動がハラスメントに該当する。したがって、本問において、Aが配慮措置を申し出たことを理由として、Bが本件委託で定められた業務からAを排除することにより、Aの能力発揮の機会や継続就業に重大な悪影響を生じさせたことは、典型的なマタニティハラスメントといえる。
4 フリーランス法上のパワーハラスメントも、労働施策総合推進法上のそれと同様、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであって、③就業環境が害される言動をいう。たとえば、コラム記事の作成等を委託した事業者が、成果物の質が低いことを口実として報酬支払いを拒絶する等の経済的ハラスメントもパワーハラスメントに該当し得るのであり、本問において、Aに対する報酬支払いを拒否したこともパワーハラスメントに該当し得る。
5 フリーランス法上のマタニティハラスメントも、パワーハラスメントと同様、厚生労働省告示において限定列挙されている。すなわち、前者としては①対価型と②環境型が、後者としては❶身体的な攻撃、❷精神的な攻撃、❸人間関係からの切り離し、❹過大な要求、❺過小な要求、❻個の侵害が挙げられているため、本問においても、Bの対応がこれらに該当するかという観点からハラスメント該当性を判断することとなる。