
1 親会社役員の暴走にどう立ち向かう?フリーランス法上のセクハラとマタハラの違い!
問 自らInstagramを運用してインフルエンサーとして活動するかたわら、SNSマーケティング及び広報プロデュース業も営むA(従業員を使用していないものとする。)は、マッチングアプリ開発のスタートアップ企業B社(従業員を30名使用しているものとする。)から、若年層向けブランディング及びインフルエンサー・キャスティング業務を月額50万円で依頼された(以下、「本件委託」という。)。
Aは、B社の現場において、ターゲット層の選定、発信メッセージの策定、動画素材の制作ディレクション、さらには出演YouTuberの決定に至るまでリーダー的役割を担い、B社の業務用Slackにおいてもプロジェクトの中心的立場から活発に発言し、月次のインプレッションやコンバージョン率の改善を繰り返していた。
本件委託の遂行中、B社の親会社である総合プラットフォーム企業C社の役員Dは、B社のSlackに参加してAの活躍を見守ってきたが、やがてAに対して執拗に私的な交際を求めるようになった。Aがこれを明確に拒絶したところ、Dは激高し、B社の全社員が閲覧可能なSlackの共通チャネルにおいて、「Aは専門的な実力など皆無であり、女を武器にしてB社の経営陣にとり入って契約をもぎ取ったに過ぎない。提案の質も低く、我がグループの人間は、これ以上Aに騙され続けるべきではない」等といったAの人格と専門性を否定する投稿を繰り返した(以下、「本件言動」という。)。これにより、ほどなくしてAはうつ病を発症して長期休職を余儀なくされた。
この事案におけるB社の対応に関する以下の記述のうち、フリーランス法に照らし正しいものはどれか。
1 男女雇用機会均等法11条1項に基づき事業者が雇用管理上必要な措置を講じなければならないセクハラとは、プライベートでの言動も含む性的な言動一般をいうが、フリーランス法14条1項に基づき特定業務委託事業者が必要な措置を講じなければならないセクハラは、業務委託に関して行われるものに限られる。したがって、本件言動が本件委託成立前の交渉の過程で行われたものであるときは、本件言動については、B社は必要な措置を講じる必要はない。
2 本件言動が、B社のSlack内ではなく、本件委託に関する認識のすり合わせのために利用した駅前の飲食店で発せられた場合でも、Aが本件委託を遂行している場所で行われた以上、B社は迅速な事実確認やAへの配慮といった必要な措置を講じる義務を負う。
3 男女雇用機会均等法上のセクハラの行為主体は、被害者が勤務する法人の役員、上司、同僚に限られず、勤務先の取引先等の他の事業主又はその雇用する労働者、顧客、患者又はその家族、学校における生徒等も広く含まれる。これに対して、フリーランス法上のセクハラの行為主体は、特定業務委託事業者の役員、労働者その他の特定業務委託事業者内部の者に限られる。したがって、本件言動が特定業務委託事業者たるB社の親会社C社の取締役Dによって行われている以上、B社はAに対して必要な措置を講じる必要はない。
4 フリーランス法上のセクハラとは、性的な関係を強要すること、必要なく身体に触ること、わいせつな図画を配布すること等の性的な行動をいう。したがって、「女を武器にして」といった性的な内容を含むとはいえ、Dは性的な発言をしたにとどまる以上、B社は迅速な事実確認や配慮措置といった措置を講じる必要はない。
5 Dの発言が、本件言動とは異なり、「子育てを言い訳にして仕事のクオリティを落とすなど甘えにすぎない。育児で頭がいっぱいの人間に、若者のトレンドなど追えるはずがなかろう。我がグループには、Aよりも若く、私生活の制約なく全力でコミットできる優秀な人材がいくらでもいるのだから、母親面したAに騙され続けるのはもう終わりにしよう」であった場合も、B社はハラスメント防止に必要な措置を講じる義務を負う。