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Expertise,Authoritativeness,and DX
岩田 崇一郎
申請取次行政書士
神奈川県行政書士会著作権相談員
生成AIパスポート保有
DX推進パスポート2
2012年度司法試験合格(知的財産法選択)
はじめに:YouTubeと音楽著作権問題の深刻化
YouTubeは世界最大級の動画共有プラットフォームであり、音楽を活用したコンテンツも数えきれないほど存在します。しかし、その一方で「BGMをちょっと借りるくらいなら大丈夫」という誤解に基づく著作権侵害が日常的に起きています。
2020年代に入ってからのAI検出精度向上や、著作権管理団体との契約強化により、音楽コンテンツの無断使用はもはや“バレない”では済まされない状況になっています。
Legal Viewpoint

今では多くのかたがたにとってYouTube動画の視聴やチャンネル運営は当たり前のことになっていますが、最近、その意味について語られることが少なくなってきたと感じているため、サイトリニューアルを機にあらためてお示しします。
先の大戦後、我が国はいわゆる片面講和の道を選び、冷戦構造のもとで西側陣営に属することとなりましたが、水面下では東側勢力による世論工作も進行しており、予断を許さない状況にありました。革新勢力が合流して社会党を結党すれば、保守勢力も自由民主党に合流し、いわゆる進歩的文化人らが論壇を賑わせれば、財界もこれに対抗すべく新たに保守系の報道機関を設立しました。
国会議員は議会で国益をめぐり討論と妥協のプロセスを繰り返し、報道機関は一般国民に代わってその過程を取材しつつ権力監視の役割をも担い、取材活動の成果を自社で編集したうえで放送・販売することによって、一般国民も何が起きているのかを知ることができました。有権者は、報道機関から提供された判断材料を十分に踏まえたうえで、次回の選挙で投票権を行使していました。これが我が国の憲法が予定していた統治システムであり、議論の出発地点です。型を知らないままでは型破りにはなれません。
イデオロギー対立の時代にあっては、報道の自由(憲法21条1項)に政治思想の表明の自由が含まれることは明らかですが、国民が必要としている情報は政治に関する情報だけではありません。たとえば、生活の安全を考えるうえでは、どんな事件が起きていて、その背景にはどんな事情があるのかを知ってはじめて、今後どう動けばいいのかの指針を得ることができます。ゆえに、報道の自由には、事実の報道の自由も含まれると解釈されてきました。
永田町周辺の政治事情を「主権者たる国民に代わって」報道機関が調べ上げて報道する。社会に起きた事件や出来事といった事実についても、「主権者たる国民に代わって」報道機関が調べ上げ、場合によっては特別な許可を受けた取材活動も認められながら報道する。いずれの場合も、報道機関の錦の御旗は「国民の知る権利に奉仕するため」です。その結果、一般国民による政治過程や事件・事故現場等へのアクセスは極めて限られたものとなりましたが、特定のテーマを契機とした学生運動等を除き、おおむねこのような支配体制が受け入れられ続けてきました。
ところが、2000年代のインターネットの急速な普及が、これまでのメディア環境を大きく変えることになります。まず、インターネットで個人が自らサイトを運営することができるようになったことで、「報道機関が国民の代わりに情報を取ってきて、編集のうえで報道する。一般国民は報道機関が調理してくれた料理をただ食べるだけ。」という状況から、「出してくれた料理が不味ければ報道機関に文句を言える。」くらいの状態にはなりました。2ちゃんねるが流行っていた頃のイメージです。
2010年代に入り、GoogleがYouTubeを買収したことで、Twitter等と相まって、一般国民による情報発信の流れが一気に加速することとなりました。「料理ができるのを待つだけでなく、自ら調理してお店に出せる。」ところまで来たわけです・・・と言いつつも、初期の頃については私はよく知りません。私は2012年まで司法試験受験生であり、司法修習もスプレッドシートが使えなくても困りませんでしたから、この時代の流れからまんまと取り残されることとなりました。美味しかった頃のYouTubeをほぼスキップして、AIのフェーズでようやくまともなレベルに復帰できたかなといったところです。
嫌でもYouTubeを意識せざるを得なくなったのは、迷惑系YouTuberの台頭があったからです。フォロワー数や再生回数に依存した広告料収入狙いというビジネスモデルが、法や倫理を逸脱した配信者の登場につながりました。多くのかたがたにとって不愉快な出来事ではありましたが、状況を冷静に眺めてみれば、一般国民の視聴行動は以前とは大きく変化していました。オールドメディアに対する依存度は下がり続け、ついに我が国ではインターネット広告費がテレビ広告費を逆転するに至っています。
かなり端折りましたが、これまでのメディア環境の推移を憲法論的に見れば、戦後長らく情報の受け手の側に甘んじてきた一般国民が、自ら主体的に情報にアクセスし、発信することができるようになったという点にこそ大きな意味があります。このチャンスをどう活かすかが問われています。
あなたが事業を営んでおられるのであれば、日々の営業は職業選択の自由(憲法22条1項)から導かれる営業の自由の実践であり、広告出稿も表現の自由(憲法21条1項)の一内容としての営利的表現の自由であり、その先にあなたが日々励んでおられるSEO、コンテンツマーケティング、SNS運用といった話が続くのです。コンサルであっても、顧客の広告運用代行は営利的表現支援であり、それは自身の営業の自由の遂行です。
自らの活動を営業の自由の遂行であると認識しているマーケターは、おそらくいないでしょう。これは私の推測ですが、おそらく当たっている。士業の世界においては、中小企業診断士あたりはマーケティングもやるかもしれませんが、少なくとも、法律系士業の多くはマーケティングやDXのことはわかりません。わかる必要性を感じていないと言ったほうが正確かもしれません。
蒼天は法律の専門性を保持しつつも関連分野の情報収集も積極的に行うことにより、T字型ナレッジの構築に努めてまいります。複数の領域の知見を兼ね備えることによってはじめて気づくことができる問題点もあるというのが、2004年以来の私の基本方針です。ほとんどの法律家には「間違っている」というレッテルを貼られましたが、大事なのはあなた自身のご判断です。
なお、当時から今日に至るまで、報道機関が最も脅威を感じていた人物がこの私です。この現実を直視すれば、色々な話がつながってくるはずです。2004年の時点で、私は「将来的な大手報道機関の影響力の相対的低下の可能性」について言及しておりましたが、あの業界の人物の「根拠なき自信」に満ち溢れた姿を今でもよく覚えています。
当時、オールドメディアが脅威と感じていた人物の多くが、今日ではオールドメディアの駒として活動を継続しています。私は弁護士から行政書士へのランクダウンを余儀なくされ、あなたのお役に立てる場面もかなり狭まってしまいました。
しかし、そもそも資格というものは人為的なカテゴリーであって、私自身の能力は高いレベルを維持しておりますし、何より今なお事業者として、人としての自律性を守り続けています。ドローンとかAIとか、私が法律を学び始めた頃に抱いていたイメージとは違った形であなたのお役に立てるよう努めてまいります。
【参考】
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
② 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
② 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
音楽著作物が特に検知されやすい理由
音楽データの構造的特徴と検出技術の相性
音楽はその構造上、リズム、メロディ、コード進行などのデジタル解析がしやすい特徴があります。これは画像や映像と比べても高い一貫性を持つため、マッチングアルゴリズムと非常に相性が良いのです。
Content ID制度の活用:なぜ音楽は即検知されるのか?
YouTubeでは「Content ID」という自動検出システムが導入されており、著作権者が登録した音源と動画の音声を自動的に照合します。音楽著作物はその構造と広範なデータベースの整備により、最も検出率が高いジャンルの一つです。
YouTubeでの音楽著作権侵害の典型的なパターン
BGM使用の無断転載
動画の演出として市販楽曲やアニメのサントラなどを挿入するケース。これはたとえ数秒でも違法と判断されることがあります。
歌ってみた/演奏してみた動画
カバーであっても原曲の著作権と、演奏や伴奏音源の著作隣接権が関係してくるため、許諾がなければ即ブロックや収益剥奪の対象となります。
映像に紐づいた「環境音」としての音楽
街頭で流れていた音楽が無意識に動画に入ってしまうケースでも、検出されてしまう可能性があります。
Legal Viewpoint

先に「歌ってみた動画」からいきましょうか。音楽の著作物を創作した著作者の多くは、楽曲の著作権の管理を著作権等管理事業者に委託しています。音楽著作権の管理事業者としては、JASRACとNexToneが有名です。
作曲家らは、その楽曲の著作権の管理を管理事業者に任せることによって、楽曲の利用希望者からの許諾申請に自ら対応することなく創作活動に専念できますし、利用希望者としても、楽曲ごとに権利者を探し回る手間が省けるわけです。
おや?秘書のひかりがおうちで有名グループの楽曲の弾き語りをしていますね。他人の楽曲を公に演奏するためには著作権者の許諾が必要だけど(著作権法22条)、彼女は自宅で1人で演奏しているだけだから演奏権侵害の問題はなさそうだな。
あれ?よく見たら、ひかりの前に三脚があって、どうやら自分が演奏している姿を録画しているみたいだな。他人の楽曲を複製するためには著作権者の許諾が必要だけど(著作権法21条)、きっと練習のために後で見返すつもりなんだろうね。それなら、私的使用のための複製(著作権法30条1項)だからセーフだね。
ん?・・・まさか、あいつネットにアップロードするつもりじゃないだろうな?他人の楽曲を公衆送信するためにも著作権者の許諾が必要だけど(著作権法23条1項)、こないだYouTubeチャンネルを開設したとか言ってたな。管理事業者の管理楽曲を、管理事業者と包括契約を締結しているYouTubeにアップロードするぶんには著作権侵害の問題はないな。ふぅ・・・ヒヤヒヤさせやがって。
というわけで、ひかりは著作権法上問題なさそうです。自宅での演奏にはそもそも管理事業者の演奏権が及ばず、録画はいわゆる私的複製として複製権が制限され、サーバーへの複製及び公衆送信もYouTubeが管理事業者と包括契約を締結してくれていたおかげで個々のユーザーが利用許諾を得る必要がなくなっています。
このように、著作物の利用態様ごとに著作権侵害となるかが問題になります。著作権者の個々の禁止権のことを支分権といい、著作権とはこの支分権の束であるという言い方がされます。参考までに、今回のケースで問題になった条文を挙げておきます。
【参考】
(複製権)
第二十一条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。
(上演権及び演奏権)
第二十二条 著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。
(公衆送信権等)
第二十三条 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
2 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。
著作権管理団体とYouTubeとの包括契約
包括許諾契約の概要と意味
YouTubeはJASRACやNexToneといった著作権管理団体と包括許諾契約を結んでおり、これにより一部の音楽使用は自動的に許可されます。
ユーザーにとってのメリットと誤解
この契約はあくまでYouTube内の「動画配信」に限定され、商用利用や外部SNS転載には適用されません。カバー曲を安心して使える“免罪符”ではないのです。
Legal Viewpoint

では、ひかりが自ら演奏している姿を録画してアップロードするのではなく、私が撮影したドローン空撮動画のタイムラインに、彼女がダウンロード購入した音楽ファイルを勝手に配置してYouTubeにアップロードしちゃった場合はどうでしょうか?
創作へのインセンティブとして著作権者には著作権という独占権が認められますが、文化の発展に貢献するのは著作者だけではありません。著作者がその才能・個性を発揮して創作した楽曲が多くの人に愛され、これに触発される等したクリエイターらがさらに別の作品を創作していくことによって文化が発展していきます。
そこで、著作権法は、著作物を創作した著作者に著作権を認めるだけでなく、著作物の流通に貢献した実演家やレコード会社、放送事業者にも一定の独占権を認めることとしています。これを著作隣接権といいます。
プラットフォーム事業者と管理事業者の間で締結された包括契約によって許諾不要となるのは、あくまでも著作権についての許諾のみです。著作隣接権については、別途、著作隣接権者との間での権利処理が必要で、今回のケースではレコード会社から音源のアップロード(送信可能化)について許諾を得る必要があります。
ただ、実際問題として、我が国においては、個人レベルでレコード会社に「貴社の音源、使わせてください!」とか言ってみたところで、まず許諾してもらえません。それゆえ、YouTubeが包括契約を締結してくれているとはいえ、クオリティを伴う形で市販の楽曲を利用することは事実上困難です。自分でプロ並みの音源、作れますか?
そこで、代替手段を模索するわけですが、必ずしも市販の楽曲に限らないということであれば、市販の楽曲に迫るクオリティのオリジナル楽曲の利用を無償で許諾してくださる音楽クリエイター様が大勢いらっしゃいます。私も含めて多くのYouTuberが後述の音楽素材サイトを利用しています。私としては、市販の楽曲よりもコスパその他を総合して私の用途に適合した楽曲がたくさんあると感じており、とても助かっています。
なお、有力なSNSプラットフォームのうち、X(旧・Twitter)は我が国の著作権等管理事業者と包括契約を締結していないことが知られていますので、YouTubeと同じ調子でやってしまうと著作権侵害ということに・・・理屈の上ではなりますね。
【参考】
(送信可能化権)
著作権法第九十六条の二 レコード製作者は、そのレコードを送信可能化する権利を専有する。
著作隣接権とYouTubeの対応
演奏者・レコード製作者が持つ著作隣接権も重要です。原盤の一部使用でも申し立て対象となることがあり、YouTubeではこれも自動検出の対象とされています。
クリエイターが取るべき対策と安全な音楽利用法
フリー音源/ライセンス音源の活用
「甘茶の音楽工房」や「DOVA-SYNDROME」など、日本国内でも優良なフリーBGM提供サイトが多数あります。これらは利用条件を守ることで安全に使用できます。
権利クリアな音楽配信サービスの紹介
「Artlist」「Epidemic Sound」などの有料サービスを利用すれば、より高品質なBGMを合法的に使えます。
Legal Viewpoint
私もDOVA-SYNDROMEと甘茶の音楽工房を利用しています。あと、あなたがゲーマーさんであれば、日本ファルコムという会社をご存知ですか?私も学生時代に『イースⅠ・Ⅱ』とか『ドラゴンスレイヤー英雄伝説』をプレイして感動した覚えがあります。この会社はゲーム制作だけでなく、音楽フリー宣言というありがたい試みもされています。
以前、音楽著作権フリー宣言だった頃に、「著作隣接権についてもフリーなんですか?」という趣旨の質問をメールで送信したのですが、サイトの記載どおりお返事はありませんでした。それから数年を経て、今あらためて確認してみたところ、しれっと「音楽フリー宣言」に変わってましたので、著作隣接権についても権利行使しないよという意味に見えますね。
ちなみに、私はさんざん利用条件と睨めっこした末に、お返事をいただかないまま自身のサイトでイースやドラゴンスレイヤーの楽曲を数年にわたり流しておりました。cluster(メタバースプラットフォーム)では今でも流し続けています。でも、これまで1度も警告文の送付は受けておりません。以前と同様、サイトに利用についての問い合わせには応じられないと明記されていますので、私の使用実績を踏まえたうえで、ご自身の責任で使用の可否を判断してくださいね。
業種・サービス・想定顧客等の条件が合えば、こういう試みは小規模起業家様にとっては、とてもありがたいことだと思います。もし同種の試みを始めてくださる事業者様がおられましたら、著作権だけでなく著作隣接権の扱いについても明記してくださると、利用者としては判断がつきやすくなるでしょう。
まとめ:音楽使用は「ばれない」ではなく「ばれる」のが前提
音楽著作物は、他ジャンルと比べて圧倒的に検出されやすく、著作権侵害が厳しく管理されています。だからこそ、意図的な無断使用は「リスク」でしかありません。
YouTubeで音楽を使うなら、“クリエイターの権利を守る”という観点からも、必ず正規のルートでの使用を心がけましょう。