
Expertise,Authoritativeness,and DX
岩田 崇一郎
申請取次行政書士
神奈川県行政書士会著作権相談員
生成AIパスポート保有
DX推進パスポート2
2012年度司法試験合格(知的財産法選択)
SNS炎上から始まった“カンプ騒動”
Adobeが公式に公開したある事業者(以下、X社)のAdobeストック活用事例記事が、思わぬ形で炎上の火種となりました。記事の中でX社の担当者が、過去のラフ制作において画像に入っていた透かしをPhotoshopのスタンプツールで消していたというコメントが掲載されていたためです。
この表現に対して、SNSでは即座に反応が広がり、「規約違反を認めてしまっているのでは」「そのまま最終成果物に使っていた可能性がある」「業界のリーダー企業としてこれは軽率ではないか」といった声が相次ぎました。
特に有料ストックフォトサービスにおける「カンプ(透かし入り画像)」の取り扱いは明確に制限されており、今回の表現がそのルールを逸脱しているように読めたことが問題視されました。Adobe自身の規約でも「最終成果物での使用不可」とされています。
このように、X社がAdobeストックをどう活用して生産性向上につなげているかということよりも、「AdobeがX社による規約違反が窺われる内容の記事をそのまま掲載したこと」への批判が燃え広がった点が本件の1つの特徴といえるでしょう。
Legal Viewpoint
Adobeの利用規約には、同社のすべての製品に適用される基本利用条件と、特定の製品にのみ適用される製品固有利用条件があります。そして、Adobeストックの固有利用条件(追加条件 Adobe Stock Additional Terms(ja_JP))の第5.2条は以下のとおりです。
5.2. お客様は、Stock アセットをダウンロードした日から90日以内であれば、最終製品または本オーディオプロジェクトにおけるStock アセットの表示や音声をプレビューする目的に限り、そういったStockアセットの「カンプ」(コンポジットまたはプレビュー)バージョンを使用、複製、修正、適応、または表示することができます。明確さのために付記すると、お客様は、ライセンスを購入しない限り、Stockアセットを最終製品または本オーディオプロジェクトで使用したり、Stock アセットを一般に公開したりする権利はありません。
本条はカンプライセンス(いわゆる無課金ユーザー)について規定しています。まず、冒頭に利用可能期間の制限がありますね。次いで、利用目的についても制限がされています。つまり、カンプライセンスだけでは、ダウンロードから90日間の利用は内部的な検討目的等に限られ、しかも、90日経過後はそのような利用もできなくなるということです。
Adobeストックのユーザーは、自社のマーケティング活動に利用する素材を漁りに来ているわけですが、素材を購入してみたけれど、やっぱりうちの社風に合わないなぁ、ターゲット層に刺さるデザインとはいえそうにないなぁ等ということも当然あり得ます。でも、ユーザーとしては、そういう場合にまでお金を払いたくないですよね。
そこで、Adobeは営業戦略として、90日間のいわばお試し期間を設定しているわけです。さすがに、透かしのない完全な素材を渡すわけにはいきませんが、たとえ透かしが入っていても、当該素材が自社のマーケティング活動に適合するかとか、プロトタイプとして大まかな完成イメージを掴んで最終的な使用の判断の参考資料とすることくらいはできますよね。ここまでは、カンプライセンスで無料で可能ですよと言っているわけです。
ただ、Adobeとしては、素材を気に入っていただけたのであれば、ユーザーから使用料をもらいたいですよね。お試し期間中は透かしを入れさせてもらうけれど、透かし入りの状態でなら内部的な検討等に使っていいですよ、もし気に入っていただけたなら、最終成果物への使用の際には透かしなしの素材をお渡ししますから、通常ライセンス料又は拡張ライセンス料という形でお金を支払ってくださいねという仕組みにすることで、顧客利益あるいは顧客満足度と自社の売上を両立させようとしているものと思われます。
これを踏まえて本件X社の事例を見てみましょう。Adobeとしては、お試し期間中は透かしが入った状態での素材利用を想定していたわけですが、X社はラフ制作の段階でこれまたAdobeのPhotoshopによって透かしを消していたことがうかがわれます。透かしが入っていても内部的な検討自体は十分可能と思われますが、早く透かしのない完成品が見たいという誘惑にかられる気持ちは私も理解できます。批判者としては、透かしをPhotoshopで除去してお金を払わずに素材を使っていたんじゃないかと言いたいのでしょう。
通常、ラフ制作段階は社内あるいは取引先も含めた少ない人数でのやりとりでしょうから、現実問題としては、Adobeが規約で透かし入りの状態での素材利用を定めていても、同社がユーザーの私的空間をパトロールし続けるわけにもいきませんから、事実上、問題にならないことも多いでしょう。しかし、今回はAdobeがX社の活動をAdobeストックの営業活動に利用するために公開したことで多くの人に知られることとなり、記事を閲覧したかたのうち、著作権意識の高いかたがたが「あれ?」って思ったのでしょう。
【参考】
基本利用条件1.2条 このアドビ基本利用条件は、すべてのアドビ製品に適用される基本利用条件です。ただし、お客様が使用する製品に適用される固有の利用条件がある場合もあります。製品固有利用条件は常に基本利用条件よりも優先して適用されます。
Adobe事例記事の本来の価値
今回の記事の本来の趣旨は、Adobeの法人向けサービス「Creative Cloud Pro」と、それに含まれる「Adobe Stock」の導入が、X社の現場の業務にどれほど大きな価値をもたらしたかを紹介することでした。
X社広告部では、以前はレンタルポジやCD-ROM素材、インターネット上のストック素材などを利用していたものの、検索性や加工のしづらさといった課題が存在していました。特に素材の探しづらさや、ラフ制作時の手間が大きな障壁となっていたのです。
Adobe Stockの導入により、素材数の豊富さ、検索性の高さ、そして品質の高さに驚いたとのことで、Creative Cloud Proは時間的・人的リソースの両面で業務効率を大きく改善する結果となりました。
記事は本来、「制作現場の困りごとをテクノロジーがどう解決するか」というポジティブな事例を紹介するものであり、一文を除けば有用な事例紹介であったことは間違いありません。
Legal Viewpoint
本文では検索性や加工のしづらさが挙げられていますが、私はそれらに加えて画像の統一性を加えたいです。個々の素材は私自ら「これいいな」って思ってダウンロードして、WordPressサイトやYouTubeで使わせてもらうわけですが、異なるクリエイター様の素材を採用することで、全体としての絵的な統一感がなくなってしまうという課題を認識していました。
また、人の姿が映っている画像をダウンロードして利用する場合、モデルリリースの確認及びその手続の煩雑さも課題として認識しておりました。事務所経営者の立場から考えますと、私が面倒に感じるということは他の人も違反しがちなわけだから、将来の私の収入を支えることになるかもしれないわけですが、あれこれ考えているうちに、私の場合は実在の人物の素材を利用する機会がなくなったことにより解決しています。
編集現場とヒューマンエラーの現実
広告や出版の現場では、「最終成果物に至るまでのラフ(仮案)」を制作することが日常的に行われています。その際、ストックフォトサービスから取得した「カンプ画像(透かし入り)」を用いて構成案を作成するケースが多くあります。
カンプ画像は、あくまで社内用の仮配置を目的とするものであり、透かしが入っていること自体が「本番では使用しない」ことを暗黙的に示しています。ただし、こうした運用が誤解を招く可能性もあり、意図しない使い方や曖昧な表現がされてしまうこともあるのです。
今回、X社の担当者が「スタンプツールで透かしを消した」と語った行為も、ラフ段階における視認性向上を目的としたものであったと見られます。この作業が最終成果物に影響しなかったことは、後のAdobeによる修正で明示されています。
このように、問題の根幹は「悪意のある違反」ではなく、現場の慣習とルールの間にある「ヒューマンエラー」であったと理解できます。
Adobeの対応に見る信頼性
批判を受けて、Adobeは当該記事をわずか数日で修正しました。記事の初出が2025年5月29日、修正が6月3日であり、企業規模を考えると非常に迅速な対応だったといえます。
修正内容も、単に表現を和らげるだけでなく、「画像の透かしを削除したのはラフ制作段階であり、最終的には正規に素材を購入して差し替えた」という事実を明記しており、誤解を解くための具体的な情報提供がなされました。
多くの企業が炎上対応に後れを取る中で、Adobeのように「即応・説明・修正」を誠実に行う姿勢は、ユーザーからの信頼を深めるものです。
Legal Viewpoint
お試し期間を経てAdobeストックに課金すると決めたら、Adobeストックのサイトで通常又は拡張ライセンスの契約をします。パワーユーザーであれば、Adobeストックが使い放題になるAdobeCC(Creative Cloud) Pro Editionという選択肢もあります。
ただし、よく読むと、このPro Editionで使い放題になるのは、ユーザーが自社の活動に素材を利用する場合であって、クライアント向け制作物に利用する場合は別途料金がかかるみたいです。
今回の件ではお試し期間中の透かしの除去が問題になりましたが、たとえば、Pro Editionのユーザーがクライアント向け制作物にAdobeストックの素材を利用していたことがひょんなことから広く知られてしまった場合、今回と同じような騒ぎになってもおかしくないですね。
私も以前、AdobeCCを契約していましたが(いわゆるアドビ税)、自身の業務との適合性という観点から、現在ではフォトプランのみです。Affinity Photo2と併用していますが、Photoshopの生成拡張が頼もしいです。
信頼される企業の条件とは
クリエイター支援を掲げる企業にとって重要なのは、「透明性」「説明責任」そして「柔軟性」だと考えます。失敗を隠すのではなく、誠実に向き合い、修正し、再発を防ぐ姿勢こそが信頼を築く基盤となります。
今回のAdobeの対応は、それらすべてを体現していたと感じました。問題が発覚した時点で迅速に修正を行い、ユーザーや業界への説明責任を果たし、実務上の誤解を正す姿勢は、まさにクリエイターに寄り添う企業の証といえます。
Adobeのように、現場とルールの“はざま”にある現実を否定せず、丁寧に扱う姿勢は、業界全体にとっても貴重な教訓であると思います。
Legal Viewpoint
近時のAIの進化には目を見張るものがありますが、蒼天としては、画像生成AIはAdobe FireFlyの使用を推奨しています。先日もBlueSkyでお伝えしましたが、国がリーチサイト規制等で海賊版コンテンツの流通を抑えようとしている状況のもとでは、違法コンテンツによる機械学習を容認するわけにはいきません。
現状、この点について立場を明確にしてくれているのはAdobeといくつかの事業者のみというのが私の受け止め方です。ただ、以前からお伝えしているとおり、このあたりは法律論というよりも政治論であると私は考えていますから、状況に応じて適切に判断を積み上げていくとしか言いようがないです。
先日、アメリカでもAIによる著作権侵害についての報告書の発表直後に著作権局のトップのかたが解任されましたよね。
結論:それでも私がAdobeを信頼する理由
確かに、今回の一件はAdobeのチェック体制に課題があったことを示すものでした。しかし、それ以上に注目すべきは「その後どう対応したか」という点です。
Adobeは問題を速やかに認識し、誤解を正し、透明性をもって対応しました。このような姿勢こそが、私たちが企業を信頼するうえで最も大切にしたい部分です。
完璧な企業など存在しません。重要なのは、失敗から学び、改善し、信頼を積み重ねる姿勢です。今回の一件を通じて、私はAdobeがそのような企業であることを改めて確認することができました。
だからこそ、私はこれからもAdobeを使い続けます。なぜなら、最も信頼できるパートナーとは「完璧な企業」ではなく、「誠実に成長し続ける企業」だと信じているからです。
Legal Viewpoint
Adobeが追加条件第5.2条を規定した趣旨は、顧客利益を守りつつ自社が利益を得るための仕組みづくりにあるのであって、顧客の規約違反を罰すること自体を目的としているわけではありません。公共の福祉のために議会が制定した法律(憲法59条1項)を誠実に執行すべき公権力(憲法73条2号)と、SNS等が発達した社会のもとで時には理不尽なレピュテーションリスクをも意識せざるを得ない私企業は違います。
確かに、できることなら本件記事のドラフトがAdobeのもとに届いた時点で修正を施しておきたかったかもしれませんが、YouTubeでAdobeCCの裏技動画(何かはわかりますよね?)が流行っている状況を踏まえますと、業務との関係で人的リソースに余裕があるわけでもなさそうです。であれば、一定のリスクを受入れたうえで、そこから生じる実害の最小化を図るのが得策と思います。
本件記事は最終的に、「きちんとライセンス料を支払ったうえで素材を最終成果物に利用した」という内容に修正されています。そうなのであれば、Adobeにはライセンス料が入っていますし、X社としても、広告効果はともかくとして、当該素材の使用の是非についてはお試し期間中に十二分に検討できたはずです。つまり、騒がれたとはいえ契約当事者間では特に不利益は生じていません。
しかも、Adobeは他のユーザーからの規約違反の指摘を漫然と放置することなく、素早く修正対応しています。これでは、自らのSNSアカウントを伸ばしたいSNSユーザーとしても攻め手を欠きますし、ユーザーの意見に対して真摯に向き合う姿勢も示すことができます。思慮深い人は軽々しくSNS等で発信しないかもしれませんが、静かに頷いていることでしょう。
無料ユーザーがどこまで可能で、透かしやロゴの扱いはどうなるのかについては、各プラットフォームの規約をよく理解しておくほかありませんが、蒼天がペルソナとする小規模オンライン事業者様にとっては、開業直後の多忙な状況のもとで、様々なツールの情報を収集しながらご自身の業務フローへの適合性を慎重に吟味する過程で、随時更新され続けるプラットフォームの規約を常に最新の内容でフォローし続けるというのは至難の業です。無理です。誰もできません
今回、X社の規約違反を指摘した他のユーザーのなかにも、将来独立することを希望しているかたもおられるかと思いますが、今回AdobeやX社に課したハードルと同じハードルを、今度は自分が越えなければならなくなります。つまり、今回の批判者は、後日、別のプラットフォームでは叩かれる側にまわることも普通に起こり得ることです。それとも、軽微な規約違反のリスクをおそれて時代遅れなレガシーシステムを使い続けますか?
蒼天としては、事案の実態に即した物言いであればともかく、この類の話でことさら大騒ぎすることは、自らの市場価値を高めるための一部士業のポジショントーク、あるいは、何らかの政治的意図を秘めているものとみなすこととしています。「日本からスタートアップが現れないのはなぜか?」という論点もありますが、このままでは日本人自身が芽を摘んでいると思われかねません。
結局のところ、そもそも本件は炎上ネタとして弱い面があり、Adobeの迅速な対応も相まって、ほどなくして鎮火するものと思われます。本件を契機として、PhotoshopやAdobeストックの認知もやや拡大したのではないでしょうか。蒼天としては、今後もこういったニュースをきっかけとして各社の規約の内容等を発信してまいります。
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